先日、京都で飲食店事業開業におけるコンサルティングサービスを提供されている高さんに、中国語Podcastにおいて、インタビューをさせていただきました。その中で、日本人視聴者の方にも伝わると面白いと思うポイントをお伝えさせていただきます。
高氏プロフィール
京都府京都市にて、飲茶レストランをチェーン展開。加えて、自身の事業で培った経験とノウハウをもとに、日本市場進出を目指す中国飲食店ブランド業の開店支援をコンサルタントして創業。昨年は、中国新進気鋭のカフェブランド M Standの海外進出をサポート。
インタビュー本編
1. 中国人視点で見る飲食産業における日本市場と中国市場の違いとは?
インタビュワー:「長年日本に住み、日本市場と中国市場の両方の市場に触れてきた中国人として、日本と中国の市場には大きな違いがあると思いますか?日本市場の最大の特徴は何だと思いますか?」
高氏:「日本市場の最大の特徴は中国市場と比較すると保守的で、かつ成熟した市場であるということだと考えます。中国人の中では、『日本人は心配性である』と冗談を言うことがありますが、それは日本人の持つモノ・サービスに対する期待値が非常に高く、期待するイメージもすでにある程度固まっているからです。彼ら消費者の持つ期待に応えることが出来なければ不満を持つことになります。」
高氏:「加えて、日本の消費者は既に経済の急成長期を経験している世代も多く、中国人の私たちが今楽しんでいるものの多くは既に体験しています。ですので、中国人のビジネス視点で『これは新しい』と認識しているものが、日本人にとって必ずしも新鮮に映らない可能性があります。そのような背景があることもあり、中国人から見ると、日本人は概ね新しいこと・ものを体験することにそれほど熱心ではない傾向があるように見えるでしょう。一方で日本人消費者は、自ら選択しそのモノを使用した、またはサービスの最初の1回目の体験が良ければ、追体験を期待して繰り返し購入する傾向が強いです。」
高氏:「中国ブランドが成功するためには中国市場でのビジネスと日本市場でのビジネスを連携させていくことが一つのカギになってくると思います。日本市場ではブランド側の試行錯誤は受け入れられにくいです。初回の商品・サービス提供時に悪印象を与えれば、そのお客様は2度と戻ってくることがないでしょう。一方で、中国市場ではそんなことはなく、ビジネスにおいては最低限のクローズドループを準備してスタートしひとまずスムーズに運営することを目指し、その後、調整・修正していくというスタイルが一般的です。例えば、飲食業界を例にあ上げると中国市場では、ブランドはメニューや味付けをその都度調整・改良して、継続的に改善していくことが比較的容易ですが、日本市場ではそんなに簡単にそのような変更はできないでしょう。日本の消費者を一度また二度満足させることができなければ、3度目の改善機会を持つことはできないと考えていいと思います。」

Figure 1:中国市場と日本市場の特徴比較
インタビュワー:「この試行錯誤を許さない理由として、日本市場には消費者にとって選択肢が非常に多くあることが挙げられるのでしょうか?それとも何か他の理由があるのでしょうか?」
高氏:「そうですね、相対的に言えば、日本市場のサービスは中国市場と比べかなり成熟しています。ビジネスを行うと言うことは、結局のところ顧客・消費者のニーズを、問題を解決することに尽きますが、日本人の消費者は、既に10点満点中8点か9点、あるいはほぼ完璧な解決策を持っているのです。私は、より良い解決策があるのではないかと常に模索していますが、もし無いのであれば「どのように」モノ・サービスを提供するかが重要になります。この点が中国市場とは、大きく異なるかと思います。文化的な背景による部分もあるかもしれませんが、その違いが主な理由だと思います。日本消費者と中国消費者の商品・サービス体験全体に対するニーズは、実に大きく異なるということです。」
2. 中国ブランドをどのように日本市場にローカライズすべきか?
インタビュワー:「高さんは、日本における中国ブランドへのローカライゼーションコンサルティングサービスの提供されていますが、特にビジネスを海外展開する初期段階において、中国人クライアントの方が遭遇する日本市場における中国市場との文化やビジネス慣習における相違点はどのようなものがありますか?何かご意見をお聞かせいただけますか?」
2-1. 変化に対する考え、コスト感の違い
高氏:「これはクライアントが抱える顕著な問題です。全中国企業がこの問題に直面すると思います。最頻出する問題は、ビジネスにおける変化のペース・スピードに対する姿勢における違いです。日本社会の変化のペースは、中国社会と比べると遅く、特に新しい変化に関しては見つけるのが簡単ではない市場といえます。中国社会が持つ状況に応じて変更を都度加えていくアプローチと比較すると、日本社会はプロジェクトの発起当初から最終的なプロジェクトの実装段階を詳細に計画しているといえ、それが一般化しています。そしてその計画したタイムラインに沿って段階的に計画を進めていくことになります。」
高氏:「例えば、よくあるケースとして、新店舗をオープンする上で、建物の改装が必要になることがあると思います。そのプロセスにおいて、中国では途中で頻繁に計画変更を行い、問題が発生した際には、すぐに対応できる担当者を派遣して対応することになります。この様なやり方は、日本では中々に難しいと留意しておく必要があります。新店舗の企画・設計段階で一度確定させてしまうと後々に内容を変更することは非常に困難になります。」
高氏:「これには多くの要因が関係しています。まず、仕事の慣習の違いが挙げられるでしょう。また、日本では委託業者が複数の異なる現場を、掛け持ちし同時にプロジェクトをこなしていることが挙げられます。彼らがクライアントと1週間作業を共に過ごしていたとして、次週には別の持ち場に移ってしまうので、クライアントが変更を加えたいと思い呼び戻そうとしても、彼のスケジュールは埋まっており、2-3ヶ月待たなければならない可能性があることは知っておくべきでしょう。日本でビジネスを展開し、何かしらの変更を加えたい場合、中国市場で行うよりもコストも時間を多大に掛かるのです。この認識のズレが中国企業が最も直面する一般的な問題の一つと言えます。」
2-2. 賃貸借契約における慣習の違い
2-2-1. 高い開店コスト
高氏:「二つ目の大きな違いは、不動産の賃貸借と認可に関するものです。一般的に、日本で店舗を開設する場合の賃貸借期間は、中国と比べ、比較的長めになります。3年から5年が最も一般的なリース期間になりますが、日本のショッピングモールなどの商業用不動産においてはリース期間は一般的に5年から7年にもなり、特に飲食店では7年から10年が一般的になります。ショッピングモール側が、より長いリース期間を提供することで、投資回収と返済を保証しようという背景があります。そして、店舗を開店するにあたっては、敷金、入居費、仲介手数料、リフォーム費用など多く存在し、これが初期費用を膨らませ、参入障壁をのし上げています。これらの費用だけで家賃の12−18ヶ月分(商業施設の場合)に相当し、そこを中国企業は考慮する必要があります。例えば、月額家賃が10万元(約200万円)の場合、初期費用だけで200万元(約4,000万円)近く支払うことになり、財務に大きな負担がかかることは留意すべきです。」
2-2-2. 高い信用コスト
高氏:「そして次のポイントは、海外ビジネスパーソンにとってはかなりユニークなものになると思います。それは、日本の不動産オーナーは、“日本での”成功事例の有無を重視すると言うことです。たとえ海外に200店舗、あるいは2000店舗を展開しているとしても、日本のショッピングモールのオーナーは、それを高く評価してくれない傾向にあります。彼らは、日本市場には独自のルールとロジックが働くと認識しているので、海外で成功したからといって日本で成功するとは限らないと考えています。率直に言うと彼らは、日本以外での成功実績の有無は気にしません。」
インタビュワー:「例えば、ロンドンやパリといった、比較的先進国のヨーロッパやアメリカの都市に店舗を構えている場合、それはプラスに働きますか?」
高氏:「海外進出前に日本市場に関連するビジネス経験を積んでいない多くの中国企業は、日本側が中国企業クライアントが、ヨーロッパやアメリカに店舗を持っていることを高く評価してくれるのでは?と想定すると思うのですが、実際のところは、ショッピングモールのオーナーにとって、これらはプラスに作用することはなく、むしろマイナスにすら取られる可能性があります。どう言うことかと言いますと、海外の別市場で成功したとことは商品・サービスがいいことを保証する可能性はあるのですが、その店舗の運営のロジックには依然として懸念を持たれてしまうのです。」
高氏:「一つ日本において信用コストがどれだけ高いのか事例を上げさせてください、昨年の2025年に、コーヒーショップM Standのプロジェクトを担当していた時なのですが、クライアント側はすでに日本における2−3軒の候補物件を見つけていました。しかし、どれも改装中であり、既存店舗ではなく直ぐにお店を出せる状態ではありませんでした。そこで、私達は小さな商店街のコーヒースタンド程度のスペース、(屋台程度)の物件に応募したました。15平方メートルの小さな物件で、賃料も非常に安く魅力的でした。クライアントは、中国における店舗数も多く、施工費など予算も潤沢な大企業であるため、問題ないだろうと考えていましたが日本に未だ店舗を構えていないという一点の理由だけで断れてしまいました。(M Standの詳細についてはこちらの記事もご参照ください。:京都から世界へ!中国人気カフェ「M Stand」が東山に初上陸、%Arabicaの成功に続くか?)」
高氏:「たとえ小さな屋台のスペースを借りる上でも、日本で店舗を経営した経験がなければ、日本社会はあなたの能力と社会的信用を疑うでしょう。彼らが最も懸念するのは、あなたが日本で店舗を経営したことがないことなのです。そして、それがショッピングモール等の運営にどのような影響を与えるのかを彼は検討します。雇用する従業員とのやり取りを含む社内管理や、日本文化の根底にある側面を理解しているかどうかも問われます。理由としては、日本語はハイコンテクストな言語であり文化だからです。実は中国文化もハイコンテクストな文化なのですが、日本人は、このハイコンテクストな文化、独自の文化だと思い込む傾向も強いということは大まかに理解しておく必要があるでしょう。日本でビジネスを経験したことがない海外ビジネスパーソンは、人間関係や社会慣習のようなこれらの文化的違いを理解できない可能性も大いにあるでしょう(実は中国文化と似てる部分も多くあるのですが)。彼らは、外国人である中国企業が、日本の習慣・慣習を理解していないと想定した上で、さらに、製品や経営システムが日本の法令に準拠しているかどうかなど、他の多くの側面も理解していないとネガティブに想定する傾向にあります。そして、日本に未だ店舗を開設していない場合は、その想定の正当性を否定する方法を持っていないことになります。」

Figure 2:難航した店舗物件選びの苦労の末、2025年夏に華々しくオープンしたM Stand京都店
インタビュワー:「そうなんですね、これはかなり日本市場に進出する上での独特の課題のように考えられますね。では、中国企業が日本にまだ店舗を持っていない場合、どのような方法で開店まで漕ぎ着けることができるのでしょうか?」
高氏:「100%確実な方法はありませんが、よくある一つの方法として、手始めにブランドの信頼性を示すために、ポップアップストアとしてモールへの出店を検討してみるのが良いと思います。これは日本では非常に一般的ですし、また、日本市場でのブランド認知度を高めるためにも、3−6ヶ月間の長期に渡るポップアップイベントを開催することもできます。加えて、ポップアップを通して、データを獲得することができ、売上高、キャッシュフロー、収益など初期段階で把握することができます。さらに、ポップアップ時に日本サイドと円滑にコミュニケーションを取ることで好印象を得れば、モールサイドの一つの懸念を解消することができます。彼らが、ブランドに信頼を寄せればその後の入居交渉もスムーズになるでしょう。」

Figure 3: Eコマース、ポップアップストアと段階的に日本市場に進出し最終的にオフラインストアをおオープンした事例:
Florasis 花西子
高氏:「また、ディベロッパー企業や、日本人個人オーナーを頻繁に訪問したり、自社に招待する、お茶を共にするなどし、関係構築に勤めていくことも重要な方法の一つです。親近感を高めることで、信頼を勝ち取ることもできるでしょう。このようなブランドの窓口のビジネスパーソンの個人的な魅力がプラスに働くこともあります。」
3. 中国企業の日本市場における優位性とは:スピード、コスト、SNSプロモーション
インタビュワー:「では比較的保守的とされる日本市場において、中国の飲食店ブランドは日本市場において、どのような強みを発揮できるかとお考えですか?サプライチェーンや経営効率などにおいて、優位性を持っているとお考えですか?それらの優位性は日本市場でも再現できると思いますか?」
高氏:「確かに優位性はあります。一般的に言えば、中国ブランドの方が組織的な対応速度に優れています。これには、サプライチェーンシステム、製品の開発・発売スピード、回転率、などが含まれます。食材自体だけでなく、設備や販促資料の更新も非常に効率的です。基本的に、何か問題が起きればすぐに誰かが対応してくれるスピード感の速さが中国企業の日本市場における強みでしょう。」
高氏:「スピードが速く、コストが比較的低いことが、間違いなく中国企業の強みになります。それに加えて、中国市場で大きな存在感を示していることを考慮すると、多くの中国企業はソーシャルメディア向けのプロモーションやビジュアルデザインの制作、新製品発売やイベントのペース管理などにおいて豊富な経験を有しています。こういったソフト面での優位性も、日本市場で活かすことができると思います。ハード面に関して言えば、設備、家具、あるいは一部の建築資材を中国から日本に直接輸入することができればコストを大幅に削減することができます。つまるところ、日本市場というのは、消費者の支持さえ得られれば比較的容易に参入できまる市場なんです。高い、参入障壁を一度乗り越えてしまえば、その後の難易度は低いと思います。」

Figure 4: HEYTEA Japan インスタグラムプロモーション例
出典:HEYTEA Japan Instagram アカウント
高氏:「ただ、この参入障壁が非常に高い。ブランドの持つ中身・良さを理解してもらうためには、日本企業のケースに比べて何倍もの努力が必要になるかもしれません。そのため、日本市場参入においては心構えから変えていく必要があるんですね。中国企業にとって日本市場参入は、最初は長い登り坂に見えるかもしれません、覚悟が十分でなければその坂を登り切る前に忍耐力と意志が消耗してしまう可能性があります。」
4. 飲食ブランドの日本市場進出・成功におけるスピード感はどれぐらいか?
インタビュワー:「中国飲食業ブランドが、日本市場で成長するには一般的にどれくらいの時間を要すると思いますか?私は、少なくとも1年はかかると思うのですが、これは早いケースですかね?」
高氏:「1年というのは比較的早い方だと思います。まず、商業用の不動産スペースを見つけ、賃貸条件の設定・交渉を始めてから、いくつかの書類に関するやり取りが2-3回ほどあります。これに約1ヶ月かかります。そこからの更なる書類手続きに更に1ヶ月。その後の改装工事に3ヶ月。これで約半年が経っているんです。つまり、ようやくスタッフを採用し開店だというまでに半年が経過しています。そこから残りの6ヶ月は、従業員とのコミュニケーションにおける文化的な摩擦なども含んだ、サプライチェーンの問題の対処・解決、そして顧客との関係改善に費やしていく事になります。ですので、日本市場で成長を実感するためには、少なくとも1年はかかると思います。」
高氏:「最初の6ヶ月で開店まで漕ぎ着け、次の6ヶ月は製品の発売と顧客からのフィードバック問題への対応に追われることになります。これらを解決するには、もう少し時間と努力が必要になることもあるでしょう。大体1年間フル稼働すれば、店舗オープンの一つのサイクルが完了するといった形です。」
5. 中国飲食店ブランドが日本市場進出において特に気をつけるべきこととは?
インタビュワー:「参入初期段階では、立地選定、店舗装飾、人材採用などが必要になってくるとは思いますが、日本市場に参入する中国企業にとって、例えば京都市場を例に挙げるとすると、中国企業が特に注意すべき点は何でしょうか? 」
高氏:「これらについては個別に議論しましょう。」
5-1. 店舗立地について
高氏:「まず、立地選定についてお話ししましょう。立地選定は比較的難しいのですが、これは必ずしも中国企業かどうかとは関係ありません。しかし、中国の大手ブランドが立地を選ぶ際には、ハイエンドな商業地区の中でも最高の立地を選ぶことが多くなるでしょう。」
インタビュワー:「トラフィックが多い場所ですよね。でも海外ブランドで、トップクラスの店舗スペースを確保するのは非常に難しいんですよね?」
高氏:「多額の資金を投じない限り、そういった場所を確保するのは難しいですね。しかもSランクの店舗は社会的信用がより一層絡んでくるため、お金だけで確保できるものではありません。この点は前述した通り信用コストが高いということです。」
高氏:「その上で更に気を付けるべきは、単に客足が集まるかどうかだけが重要ではないということです。店舗によっては、目の間のトラフィックは非常に多いが、店舗へ人を引きとどめられないというケースもあります。一方で、細い道のように見える場所でも実は地元の人たちが頻繁に通っているといったケースもあります。こういう点を評価し、立地を選ぶには、ブランド独自だけで判断するのではなく立地選定をサポートしてくれる人物の存在が非常に重要になってきます。ローカルの人間の移動パターン、人の流れを熟知し、地域に密着したものの助けが必要になってきます。私は決して、そのような人物であると名乗るつもりはありませんが、私自身も自分の店を経営しており、立地選びの失敗からも学んできましたので、その経験を活かせると思っています。」

Figure 5. M Standの新店舗は南禅寺に続く参道沿いに位置し、観光客にアピールしやすい立地となっている。
出典:M Stand小红书アカウント
5-2. 店舗デザインについて
高氏:「次に、店舗の装飾やデザインです。先ほども申し上げたように、日本における改装における期間は、中国と比較すると比較的長くなります。さらに、観光地であると同時に古都でもある京都には、景観条例と呼ばれる都市景観に関する詳細な規制が数多く存在します。そのため、多くの中国国内ブランドの店舗デザインやロゴなどは、京都では再現が難しくなっています。また、ロゴについても、ブランドカラーや店舗面積など、地域によって異なる独自の要件が定められています。例えば、川沿いの立地に関する規制、山間の立地に関する規制、市街地の立地に関する規制などがあります。これらの規制は、対応難易度も異なりそれぞれに詳細なルールが定められています。」
インタビュワー:「ロゴの色、形、サイズなど、どのような要件があるのでしょうか?」
高氏:「色など、あらゆる面で制限があります。例えば、京都ではロゴに原色を使うことが禁止されているとよく耳にするかもしれません。原色とは、鮮やかな赤、鮮やかな緑、鮮やかな黄色といった色を指します。それに加えて、実は他にも様々な色に関する規制があります。例えば、私たちがM Stand南禅寺店のプロジェクトを手がけていた時は、南禅寺の付近の域区分はピークゾーン風致地域と呼ばれ景観規制が最も厳しいエリアに店舗が位置していました。」
インタビュワー:「風致地域における景観規制は、いったいどれくらい厳しいものなのでしょうか?」
高氏:「まず、外壁材は4種類しか使えません。そして、全て自然素材でなければならないんです。例えば、壁を白く塗りたい場合、白いペンキは使えず、白漆喰しか使えません。茶色の壁を作りたい場合、杉板を使い、それを焼いて炭化させるしかありません。土壁の場合は、薄い黄色と濃い黄色のどちらかしか選べません。これらの規制は非常に厳しいと言えます。加えて、建物自体の高さ制限もあります。そして、規制は窓枠にまで及んでおり、この地域では窓枠を金属製にすることができません。」
インタビュワー:「なぜでしょうか?」
高氏:「京都の持つ古都のスタイルに影響を与えない必要があるからです。窓枠においては、フレームレスで目立たないデザインにするか、木材を使う必要があります。銀色のアルミニウム合金製のものは絶対に使えません。」
高氏:「規制事項は非常に細かく定められています。リフォームの設計者や施工者がこれらの条件を十分に理解していないと、様々な問題に直面することになります。冒頭で述べたように、日本人作業員が既に作業を終えていて、規制に対応するために呼び戻したい場合、1ヶ月、それ以上の時間を要します。作業員が外壁塗装工事の為に、現場に戻ってくるまで2ヶ月かかることもあるんです。リフォームって結局、段階毎にやっていくものですよね。必要な作業の一部を完了していない状態で、他の作業を進めると多くの不必要な手続きが発生し、多額の追加費用が発生したります。京都では、こういう煩わしさがあるのは確かです。」
インタビュワー:「選択肢が少ないということは、ある意味プラスに働くこともあるかもしれませんね。」
高氏:「京都らしいスタイルにするという点では、基本的にA、B、C、Dのなどのいくつかの選択肢から選ぶという形で、選べるスタイルは限られてくると思います。」

Figure 6. 町屋のスタイルを活かしたブルーボトルコーヒー京都六角カフェ
出典:ブルーボトルコーヒーオフィシャルウェブサイト
インタビュワー:「このように店舗デザインなどに使う素材や色、ロゴの指定は京都だけが厳しいのですか?それとも全国共通なんですか?」
高氏:「基本的に、京都が一番厳しいですね。各地域にはそれぞれ独自の地域規制がありますが、京都はこうした規制が数多くあります。それから、奈良や金沢のような伝統的な町にも同様の規制があります。逆に、例えば、大阪は規制が緩いと言えます。道頓堀商店街に行ったことがあるでしょうか?あそこにある看板は、本当に大きいです。道頓堀では、それが街の特徴となり大きな看板やインパクトのあるスタイルが主流となっています。」
高氏:「それぞれの都市が個別独特の雰囲気を持っているんですね。関西地方だと、京都、神戸、大阪、の三都市は互いに車でわずか1時間程度の距離感にありながら、それぞれの街が全く異なる街の特徴を有しています。これらの特徴は、地方政府の政策が反映された面があり、各自治体が都市イメージの構築に多大な力を入れていることがわかります。このように、日本のどの都市もブランディングに力を入れていることがわかると思います。伝統的、または現代的なスタイルであれ、商業的、または文化的な都市イメージを作る・維持する上で彼らは様々な規制を敷いています。そのことを、中国企業は念頭に入れ置くといいでしょう。」
インタビュワー:「規制が非常に厳しい京都では、もし既存のブランドロゴの色が京都のロゴの要件を満たしていない場合はどうなるのでしょうか?ブランドはブランドカラーを変更するだけで済むのでしょうか?」
高氏:「ブランドロゴの色についは、多くの場合強制変更の対象となります。例えば、明るい色を広い面積で使用したい場合、N4以上の色は使用できないという規則があります。N4というのは、塗料の日本産業規格(JIS)の値になります。JIS規格には色見本があり、色彩基準に加えて、明度とグレースケールの基準も定められています。京都市内においては、明度N4またはN6を超える色は使用禁止になります。」
高氏:「有名な例としては、マクドナルドが挙げられるでしょう。マクドナルドは、通常は赤であるべきロゴを茶色にすることがあります。あるいは、店頭の最も明るい部分を白黒にすることもあります。また、京都のローソンでは白色のみのカラーがあります。日本では、ローソンのロゴは上下が白で真ん中に青いストライプが入っていて、京都の一部の店舗では景観条例に対応する為、更に白地が多くなる変更があります。そして、中国は全部真っ青だったはずです。」

Figure 7. 各地域のローソンのロゴの違い
高氏:「京都では、配色に関して多くの要件がありますが、最初は色だけに規制がかかると思っていたのですが、行政の説明を伺うと、景観を守るために本当に細かくて丁寧な規制があります。素材、面積、明るさなど、あらゆる面で制限があるんですね。例えば、角地の店舗であれば、巨大なL字型の看板を掲げることはできますが、規制により掲載可能なエリアの全体を覆うことはできません。つまり、看板の面積には限りがあります。そのため、多くの店舗では正面、側面、角の3つの区画に小さな看板を設置し中央に空白スペースを設けるように対処しています。また、内照式以外の使用は許可されていません。そして、改修工事や看板設置のたびに、自治体に何度も許可を取りに行かなければなりません。許可を取得した後も、看板の設置は自治体が認可した業者に依頼しなければならず、自分たちでやることはできないのもポイントです。」
インタビュワー:「これは、なぜでしょうか?」
高氏:「許可申請時は問題はないものの、その後、修正を加えてしまうことを行政は懸念しているからです。京都市のように、施工業者を認可性にしている場合、施工完了報告書の提出が求められます。これらを提出しないと、行政指導が発生する可能性があります。」
5-3. 現地スタッフ採用・教育について
インタビュワー:「では、店舗スタッフの採用や教育において、どのような点に注意すべきだとお考えですか?また日本人スタッフを採用するのがベストな選択なのでしょうか?それとも、最初は中国人スタッフで対応すべきでしょうか?」
高氏:「採用という観点から言えば日本での店舗スタッフ採用は比較的容易だと思います。ただ、厨房作業が苦手な人も多いのは確かです。なので、カフェ業態だと1日に50人ほどの面接応募があるのに、厨房作業のウェイトが高いレストラン業態だと1日に2人しか面接の応募がないということはあります。また、賃金は同じレベルなのですが、日本の若者は飲食業界で働くことへの意欲が低く、小売業などの仕事を好む傾向があります。飲食業界の中でなら、より負担の低い、ホテル、旅館、バー、カフェなどが好まれる傾向にあると思います。」
高氏:「次に、中国企業は日本の社会保障費は非常に高額である事には留意しておく必要があります。そして、社会補償費の支払い要件の対象となる正社員・フルタイムワーカーを避け、2つ以上の異なる企業でパートタイムで働いているスタッフも多くいます。仮に、採用時に正社員としての登録する意思があれば、その人の採用へのコミットメント・意思は非常に強いものと受け取っていいでしょう。ただし、正社員として雇用すれば、雇用主側の負担する社会保障費が高くなることを忘れてはなりません。これが従業員の長期的な育成とコストという採用における課題・ジレンマにつながります。」
高氏:「また、海外企業は、日本のいわゆる「社員手帳文化(マニュアル文化)」にも気を配るべきでしょう。特に無印良品の「社員手帳文化」は特筆すべきです。問題が発生した際にどのように対応し、対処するかといったマニュアルを用意することは非常に重要になります。加えて、日本の社員教育においては、必要な研修はすべて徹底的に実施しなければならないという暗黙のルールがありますので、参入ブランドはしっかりとして研修システムを用意すべきです。そういった研修制度に依存していることもあり、基本的に投入すれば自力で問題を解決する中国人社員と比べると、日本人社員は個人としての問題解決能力は低いと取れるかもしれません。一方で、業務の引き継ぎや、秩序だった報告、社内調整においては、日本人社員の方が比較的に得意です。また、日本人社員は責任意識が非常に高いため、問題発生時に誰が責任をとるべきかを明確に理解しています。」
インタビュワー:「仮に自分の責任ではなくても、お客様からクレームがあったり、誰かに代わって謝罪を求められた際に備えて、雇用側はどのような準備をすべきなのでしょうか?」
高氏:「日本人は責任感、責任に対する意識が強いので、社員手帳や懲戒制度を作る際に必ず詳細を明記しておいてください。そうすれば、用意された制度・システムの中で日本人スタッフはブランドのためにベストとなるよう全力を尽くしてくれるでしょう。一方で、彼らは積極的にルールを修正し、プラスアルファな動き、または余計な動きはあまりしません、ここが中国人スタッフと少し異なる点になるでしょう。長期的な視点に立って、中国の経営手法を無理やり押し付けるのではなく、日本人社員に適した、ローカライズした独自の勤務体系を確立していく必要があるでしょう。さもなければ、彼らは制度・システムに居心地を悪くし離職率の増加につながり、コストの増加につながることは気に留めておいてください。」
インタビュワー:「制度設計が重要になるのですね。他には、中国人従業員と日本人従業員の主な違いはありますか?たとえば、お客様からクレームが発生した時、日本人の従業員は誰のミスなのか敏感だったりしませんか?」
高氏:「そうですね、例えば、私は細かいことはすぐに忘れてしまうので、割と誰のミスなのかは適当に済ませてしまうし、小さなクレームであれば聞き流してしまうこともあるのですが、日本人の社員は、ただそのクレームを受け取るだけではなく、『これは自分のせいじゃない、自分の責任じゃない、誰かのせいだ』と感じる傾向が強いかもしれません。なので、彼らの方がより現場の問題に対して敏感であるとも言えます。これは、人それぞれではありますし、あくまで私の印象でしかないのですが、特にマニュアルで対処できないクレーム対応の問題においてこの傾向が強いと思います。」
高氏:「そして、日本人スタッフはルールを徹底して守る傾向が強いと言えます。簡単に言えば、『トイレを1日に5回掃除しなさい』と言えば、必ずやってくれます。『ルールだから、やらなければならないことなんだ』と伝えれば、必ずやってくれます。一方で、私の知る限り、中国人スタッフは素直に5回もやってくれません、多くて3回まででしょう笑」
高氏:「一方、ルール内でもっと良い方法があると思ったら積極的に提案もしてくれます。『ここは効率が悪すぎる。やり方を改善しないといけない』と言ったように、こういった改善的行動を中国人スタッフはよく取ってくれます。」
インタビュワー:「そうであれば、上長や店長がそのような従業員の行動に気を掛けることは重要になってきますでしょうか?」
高氏:「ええ、確かにそうですね。社内規定やルールにどうしてても存在しない点をスタッフにお願いするようなことになってしまいます。そこで、ルールを細かく書いておけば書くほど、教育に時間を掛けるほど、実践しやすくなるでしょう。比較的、日本の従業員は一度プログラムを立ち上げれば、それを継続するために全力を尽くしてくれます。」



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