By 钱 俞颖, 2025.06.20
中国の中小企業からシンガポール市場への参入に関する問い合わせがますます増えていることを受け、シンガポールの関連規制に関する実践的なヒントと、中国企業を例に扱いながら、それらに関する知見を共有することにしました。これらのヒントは、中国企業だけでなく、シンガポール市場に新規参入する、、大手多国籍企業を含む、他の外国企業にも役立つと考えますので日本語版でもシェアさせていただきます。以下、記事をご覧ください。
シンガポールにおける中国の食品・飲料チェーン店の参入状況
周知の通り、シンガポールは、地理的な近さ、文化的な類似性、そしてビジネス優遇政策を背景に、中国企業によるASEAN進出の拠点として好まれている。2024年6月末時点で、35の中国食品・飲料ブランドがシンガポールで191店舗を展開している。特に2023年以降には、COTTI Coffee、Luckin Coffeeなど、15の新規ブランドがシンガポールに進出している。(Luckin CoffeeとCOTTI Coffeeの海外展開については、こちらの記事もご覧ください:中国カフェチェーンの海外進出“Grab-and-Go”でシェア拡大を狙え)
シンガポールにおける中華系飲食店のタイプは多様であるものの、カジュアルなダイニングや飲料への偏りがある。Luckin CoffeeやMIXUEといった飲料店(コーヒー・紅茶専門店)が全体の48%を占め、最も大きな割合を占めている。次に多いのは、主に火鍋などのメイン料理で、四川料理や中国北部の料理を提供する店が多く、シンガポールの中華系飲食店の27%を占めている。(東南アジアにおける新しいスタイルのティーブランドのサプライチェーンについては、こちらの記事をご覧ください。: 新式茶のグローバル展開: サプライチェーンの最適化が成功の鍵 (MIXUE, HEYTEA, CHAGEE, ChaPanda))

Figure 1:シンガポールにおける中国の食品・飲料ブランドの内訳
中華料理への需要が持続し、市場環境も好調なことから、中華系食品・飲料チェーンはシンガポールで引き続き成長していくと見込まれている。その大きな原動力の一つは、シンガポールに多数居住する華僑の存在になる。2024年6月現在、シンガポール国民の75.6%は華僑である。また、シンガポールは中国人観光客に人気の旅行先となっており、2024年には中国本土から308万人が訪れ、前年比126%増を記録し、昨年のシンガポールへのインバウンド観光客総数の18.7%を占めると推定されている。中国人観光客からの大きな需要と、華僑シンガポール人の間で高い受容度を誇ることから、中華系食品・飲料チェーン店がシンガポールに進出するのは、比較的容易であると結論づけられる。

Figure 2: シンガポールに進出したLuckin Coffeeのとある店舗
しかしながら、シンガポールで食品・飲料チェーン店を開業するには、いくつかのリスクが伴う。その一つが各種の規制遵守になる。
コンプライアンスのための主要な規制
シンガポールでは、食品・飲料事業は規制や法律によって非常に厳しく規制されており、食品安全、衛生基準、労働法など、様々な側面が規制されている。
シンガポールでレストランやコーヒーショップを開業する際に、企業が注意すべきコンプライアンスは基本的に3タイプに分類できる。それは以下の通りである。
- 市場参入におけるコンプライアンス
- 製品におけるコンプライアンス(輸入における)
- 営業におけるコンプライアンス
a. 市場参入におけるコンプライアンス
シンガポールで外国人がレストランや喫茶店・カフェを開業することに関して、特別な制限はない。外国人は、会計企業規制庁(ACRA)に直接会社を登録し、レストラン経営に必要なライセンスを取得することができる。
一般的に、シンガポールで食品店のライセンスを申請することはそれほど難しくなく、各部門が提供する手順に従って、GoBusiness Portalで申請するだけである。

Figure 3: 食品店に適用される一般的なライセンス
現地居住要件 / Local residency requirements
個人事業主、現地企業、外国企業、有限責任事業組合(LLP)、または有限責任組合のいずれとして登録する場合でも、会社が行う必要のあるすべての事項に責任を負うマネージャー、取締役、または代表者として少なくとも 1 人の現地居住者を任命する必要がある。
シンガポール国外に居住しながらシンガポールで個人事業主/パートナーシップおよび外国会社を設立する申請を希望する所有者は、少なくとも1名のシンガポール在住の正式な代表者を選任する必要がある。この代表者は、シンガポール市民、永住者、または就労パス/アントレパス(外国人でも可)の保有者である必要がある。代表者は、シンガポール会社法(Singapore’s Companies ACT)違反した際には、会社に課される罰則の対象となる可能性がある。
適切な現地居住代理人を見つけられない外国人向けに、年間 2,000 ~ 5,000 シンガポールドル程度の費用で同様のサービスを提供する代理店会社もあるのは、ご存知だろう。
b. 製品におけるコンプライアンス:
シンガポール食品庁(SFA)によると、シンガポールで消費される食品の90%以上が輸入されているにもかかわらず、シンガポールは世界各国と比較して食中毒の発生率が最も低い国の一つである。
シンガポールは、原産地である農場や、輸送プロセスなどを管理するため、他国からの食品輸入に対して厳格な規制を実施している。企業は、母国で使用しているものと同じ原材料を製品に使用できない可能性がある。特にケータリング事業においては、輸入規制を理解することは不可欠になってくる。
SFA認定施設からのみ海外の原材料を調達できる
シンガポールは5種類の高リスク食品を定義している。これらの食品は、加工食品や野菜に比べて病原体(病原ウイルス、細菌、真菌、原生生物)に汚染されるリスクが高いため、シンガポールに輸入する前にSFA(シンガポール食品庁)の認定を受ける必要がある。事業者は、海外のSFA認定施設から調達するか、独自にSFAに認定を申請することができる。
高リスク食品は次の 5 種類である:
- 肉類および肉製品(肉含有量が5%未満の製品を除く)
- 生家禽類
- 殻付き卵
- 加工卵(例:粉末卵、低温殺菌卵、全卵)
- 魚介類および魚介製品(生牡蠣やフグなど、食品安全リスクが高いとされる魚介類を含む)
各輸入貨物には、SFA の食品安全基準を満たしていることを証明するために、中国出入境検験検疫協会(CIQA)などの輸出国または地域の管轄当局が発行した衛生証明書を添付する必要があある。
また、中国や日本からシンガポールへの輸送では、食品は冷凍または冷蔵された状態で輸送されることが想定されるが、シンガポール政府はコールドチェーン輸送も厳しく規制している。規定により、冷凍食品は輸送中の中心温度が -12°C を超えないように -18°C 以下に保つ必要があり、冷蔵食品は輸送中の中心温度が 7°C を超えないように 4°C 以下に保つ必要がある。
高リスク食品をシンガポールに輸入するための主な手順:
ステップ1:食品の分類を確認する。
こちらのウェブサイトを参照: https://www.sfa.gov.sg/tools-and-resources/food-and-related-products-classification-tool
ステップ2: SAFに輸入者として申請する資格があることを確認する。
こちらのウェブサイトを参照: https://www.sfa.gov.sg/tools-and-resources/food-and-related-products-classification-tool
ステップ3: 製品がSFA要件を満たしているかどうかを確認する。
こちらのウェブサイトを参照: https://www.sfa.gov.sg/food-import-export/commercial-imports/import-requirements-for-food-food-products#meat-and-meat-products-0
ステップ4:SFAで輸入ライセンスを申請する。
SFA は製品、保管プロセスなどを検査する。こちらのウェブサイトで申請登録できる: https://www.sfa.gov.sg/food-import-export/licence-permit-registration/application-process-fees-for-licence-permit-registration-for-import-export
ステップ5:TradeNetで輸入許可を申請する。
準備する必要があるものには、HS コード、施設コード、衛生証明書、検査報告書などがある。
ステップ6:CCP(貨物通関許可証)を受け取ってプリントアウトする。
CCP は輸入に関するすべての要件を明記してくれる。 (例: 検査の予約が必要かどうか)
ステップ7:税関で製品を検査してクリアする。
誤りや違反行為があった場合、最高10万シンガポールドルの厳しい罰金が科せられる可能性がある。

図4. シンガポール税関
C. 営業におけるコンプライアンス
日常業務におけるコンプライアンスは、主に日常の衛生状態、食品の安全性、アルコール販売、従業員の採用などを対象としている。レストランの査察は、SFAの衛生担当者によって年に1回実施される。査察は年間を通していつでも実施される可能性があり、事前に通知されることはなく、抜き打ちで実施される。
食品の安全性を維持するために、食品店は次のことを行う必要がある:
- HACCPに基づく食品安全管理システム(FSMS)を確立する必要がる。ケータリング業務の実施が承認された小売食品事業者は、少なくとも1人の従業員がWSQ FSCレベル4の認定を受け、能力認定を取得する必要がある。
- 店内にビュッフェエリアがある場合は、食品取扱者と顧客が簡単に使用できるように、ビュッフェの食品展示エリアに十分な数の手指消毒剤または使い捨て手袋を用意する必要がある。
- コーヒーショップにおいては、シンガポールNEAのES(環境衛生)基準に従い、窓、天井、ダイニングエリア、トレイ返却ステーション、手洗い台、トイレ、集中洗浄エリアなどの清掃および消毒計画を含むES計画を提出する必要がある。
企業の外国人従業員雇用枠には限りがあるため、外国人雇用枠を確保する一つの方法としては、WSQ FSC レベル4の認定を受けたシンガポール人従業員を雇用することが考えられよう。
厳格な酒類販売規則
シンガポールは長年にわたり、アルコールの販売、消費、広告に関して厳格な規制を維持してきた。酒類(質量または容積で0.5%を超えるエタノールを含む飲料を指す)を供給する事業体には、酒類販売免許が必要になる。また、免許取得後においても、当該事業体は免許に記載された営業時間外に酒類を販売することはできない。
加えて、ゲイランとリトルインディアの一部地域では、特別なアルコール規制が実施されている。これらの地域では、公共の場での飲酒は禁止されている。また、レストランやバーでは、アルコールの販売時間が制限されている。(月曜日から金曜日:午前7時から午後10時30分まで、土曜日、日曜日、祝前日、祝日:午前7時から午後7時まで)

Figure 5: ゲイランの酒類規制区域
外国人雇用に関する厳格な規則
クォータシステム:
シンガポールでは、1つの企業が雇用できる外国人労働者の数を制限するため、従属比率上限(DRC)とも呼ばれるクォータ制度を導入している。
サービス業では、企業は全従業員の最大35%まで外国人労働者を雇用できる。さらに、中国人労働者については上限が設定されており、1つの企業が雇用できる中国人労働者の数は全従業員の8%までに限られる。
外国人雇用税 (Foreign Worker Levy):
外国人雇用税(通称「Levy」)は、シンガポールにおける外国人の数を規制するための課税メカニズムである。企業は就労許可証保有者に対し、毎月課税を支払う義務があり、サービス業の場合、既に雇用している外国人の数に応じて月額450~800シンガポールドルの範囲で支払うことになる。
シンガポールは、就労許可証保有者の最低賃金とLevyを引き上げており、特に中小企業にとって外国人雇用が困難になり、コストも高まる可能性がある。2024年には、シンガポール人材開発省(MoM)は、就労許可証(EP)の最低賃金を5,000シンガポールドルから5,600シンガポールドに、SPassの最低賃金を3,150シンガポールドルから3,300シンガポールドルに引き上げている。
実際の違反事例
事例1
2018年、ある火鍋チェーン店のスタッフがスイカを切る際に手袋を着用していなかったことが発覚した。この店は、シンガポール環境庁(NEA)から800シンガポールドルの罰金を科され、営業免許を2週間停止された。
事例2
2024年7月、TikTokのシンガポールオフィスで集団食中毒が発生し、130人が腹痛を訴えた。これは、中華料理店とサプライヤー業者から供給された食堂の食事が原因であった。その後、検査官は、店内で調理された鶏肉の角切り炒めに細菌が混入していたこと、そして店内にゴキブリが10匹いることを発見し、レストランは3,500シンガポールドルの罰金を科され、営業免許を2週間停止された。

Figure 6:TikTokシンガポールオフィスに到着した救急車
事例3
2024年、ある中国系卸売業者が有効な輸入許可証を持たずにシンガポールに400kgの肉製品(金華ハム)を違法に輸入した。同社は4,000シンガポールドルの罰金を科された。

図7:シンガポール税関で差し押さえられた400kgの肉製品
*金華ハム中華料理でよく使われる食材で、煮込み料理や蒸し料理の風味付けに、また多くの中華スープのだしやスープの素として使われている。(筆者おすすめの中国調理です。)
事例4.
2025年、人材開発省は、金銭と引き換えに20人の外国人労働者の就労ビザを違法に取得していたダミー会社を発見した。このダミー会社が雇用した外国人の数は、すでに雇用枠を上回っていた。全ての違反行為に関与したこのダミー会社の取締役は、最長2年の懲役、最高2万シンガポールドルの罰金、またはその両方を科せられる可能性がある。また、むち打ち刑に処される可能性もある。
最後に
中小企業にとって、会社設立における規制遵守に関連するコストは決して小さくない。シンガポールでの事業設立を検討する際には、規制について事前に調査することが重要になってくる。
一方で、大企業は一般的に現地の法律を遵守する能力が高いが、食品安全に関しては、中国と他国の気候の違いが食品汚染のリスクを高めている。若手スタッフやパートタイムスタッフを対象とするオペレーションでは、適切なトレーニングと日々の指導が不可欠になる。店舗運営マネージャーは、販売・販促スキルだけでなく、チームメンバーの教育・指導能力も考慮して選考することを強くお勧めする。
同様に、食品業界以外にも、Triunityでは、工業分社、新エネルギーやESG分野、ファッション分野など、様々なセクターにおける規制調査を実施している。シンガポール、東南アジア、さらには中国における業界規制に関するご要望やご質問の際には、以下よりお気軽にお問い合わせください。
参考文献
[1]新加坡政府七部门, 2024.9, Population in Brief 2024
[2] Jing Daily, 2025.3.11, Chinese tourist visits to Singapore surge 126% YoY in 2024
[3]云片,2024.5.15, 云出海|餐饮出海新加坡:中国味道何以攻略狮城
[4] Singapore Food Agency
[5] Singapore Police Force
[6] Singapore MoM
[7] Singapore MUIS
[8]联合早报,2018.2.14,食物不干净 处理食物没戴手套 克拉码头海底捞吊销执照两周
[9]财经头条,2025.6.6,新加坡字节跳动食物中毒案进展:云海肴被告上法庭 食品质量存问题
[10] The Straits Times, 2024.9.12, Wholesaler fined $4,000 for illegally importing meat products into S’pore from China
[11] The Straits Times, 2025.1.9, Cleaning company owner charged with various employment offences
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